ある日曜日の午後。
私は、ターミナル駅の改札口を出たところ、有名なモニュメントの横で、
一緒に昼食に行く約束をしていた学生時代からの友達を待っていた。
その日はとても良い天気で、私はハンカチで汗を拭いつつ、
(どうして建物の中での待ち合わせにしなかったんだろう)
と外での待ち合わせにしてしまった事を後悔しながら彼女を待っていた。
約束の時間から15分ほど過ぎた頃、携帯電話が鳴った。
約束の友達からの電話だった。
彼から急に「今から会いたい」メールが来たらしく、今日の約束は延期にしてほしいとの事だった。
付き合って2ヶ月、彼女はまだラブラブなのだから、私との約束よりもそっちを
優先するのはまあ仕方のない事だろう。私も彼女の恋愛を邪魔するつもりは
全くなかった。
私は彼女に、
「うん、分かった。こっちは全然大丈夫だから。彼にもよろしくね。」
と言って電話を切った。
さて、これからどうしよう。
今日はこのまま家に帰るのはもったいないぐらい天気が良い。
せっかく街に出ているのだし、ちょっと足を伸ばしていつもの雑貨屋へ
掘り出し物を探しに行ってみるのも悪くない。
空はこんなに青いのだ。何か素敵なものがあるに違いない。
私は待ち合わせ場所からひとり、雑貨屋のある通りへ向かった。
大通りの喧騒から少し離れた路地の奥に、その店はある。
今日はこの店にに来るつもりではなかったので、特に目的もなく軽い気持ちで
店内をぶらぶらする。元々が小さい店なのですぐに一周してしまう。
「さすがに今日は掘り出し物もないかな・・・」
いくらお気に入りの店でも、そうそういつも掘り出し物が見つかる訳ではない。
(そういえば彼女は今頃彼と会ってるのかな。どこに行ったんだろう。)
そんなことを考えながら、私は無意識のうちに店のテーブルに並べられた赤い
ゴム製のエッフェル塔をひとつ手にとっていた。同じものの色違いが他に2色、
一緒に並べられていた。
私は(窓際に3つ並べて飾ったら良いかも知れないな)と思い、3つとも買って
帰ることにした。
「ただいま」
夕方誰もいない家に帰り、まずはCDプレーヤーとエスプレッソマシーンの
スイッチをオンにする。
CDプレーヤーからは昨晩聴いていたボサノヴァの続きが流れだした。
私は入れたてのエスプレッソを飲みながら、今日買ったばかりのエッフェル塔を
3つ、並べてみた。
(目的なく行った割には、結構良い買い物が出来たんじゃない。)
今日の成果にまあまあ満足する。
「そういえば、この3色ってフランス国旗と同じ色よね。フランス国旗の
並び順はどうだっけ?」
PCの検索サイトで調べてみようと思い、PCを起動させ、CDのボリュームを
少し絞って、検索サイトに「フランス 国旗」と入力した。
目の前のモニターには、ずらずらと検索結果が表示される。
一番詳しく書いていそうなサイトをクリックしながら、エスプレッソを一口、啜る。
フランス-正式名称「フランス共和国」国旗の3色はそれぞれ「青=自由」「白=平等」「赤=友愛」を表す。
なるほど。「青」、「白」、「赤」の順番なんだ。私は、窓際のエッフェル塔を国旗と同じ順に並べ直し、残りのエスプレッソを飲み干した。
(エッフェル塔を真下から見上げたら、どんな風に見えるだろう。)
それは馬鹿みたいな思い付きだった。きっと誰もが一度は思う事だろうし、
多分インターネットで検索すれば沢山出てくるだろう。
でも、行って自分の目で確かめたい。自分がどう感じるか、それを知りたい。
まとまった休みがなかなか取れないので、いつ行けるかは分からない。
でも、きっと近い将来、エッフェル塔の真下に寝そべってどんな風に見えるのか確かめてやる。
待ってろよ、エッフェル塔。
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