文具と雑貨のお店 プチチケット
petit-ticketで扱う商品をテーマにしたフィクションのショートストーリー。
〜petit-ticketのある風景〜
チョコ
放課後、午後4時30分。
教壇を間に挟み、アイツと僕が向かい合って立っている。
ほんの1時間ほど前まで一緒に授業を受けていた時とは別人みたいだ。
唇が少し、赤みを帯びている。目もパッチリしてるように見える。
でも、そう見えるのはこの状況のせいかも知れない。
僕はなんて声を掛けて良いのかわからず、ただ黙っていた。
アイツは、授業中と違って僕の顔を正面から見ることはせず、すこし伏し目がちに
「はい。これ。」と紙袋を僕に差し出した。
今日の日付から考えてこの紙袋がチョコなのは分っている。
そしてアイツは毎年、僕にチョコをくれる。
義理バレバレのチョコだけども僕が貰うチョコは毎年そのバレバレの義理チョコ一つだけだった。
でも、今年は色々と雰囲気が違う。
去年も一昨年も放課後帰り際に「モテない男子に愛の手を〜。」などと騒ぎながら、
僕の机の上に愛想の無い無骨な茶色の紙袋を投げるように置いてそのまま去って行っていたのが、
今年は放課後、教室に呼び出され、
行ってみるとなんだかアイツは綺麗になっていて、
しかもチョコの入っている袋はとてもカラフルで素敵な花柄になっている。
アイツの事だから、きっと中のチョコも今年は今までと違うんだろう。
それぐらいは僕にもわかる。
この2年半、コイツとほとんど毎日下らない事を言い合ったり
口げんかしたりしていたのだ。 そんな事を考えるとちょっと笑えた。
「な、何が可笑しいのよ?」
彼女はようやく僕の顔を見て、ふくれっ面でそう言った。
「いや、この紙袋の模様を見てたら、」
「見てたら?」
「なんか、お前が選んだ袋、って感じがすごいして。何か元気一杯、て感じじゃん。この袋。 お前もそうだし。」
アイツは顔を真っ赤にして、また俯いた。
「私、アンタのこと割と好きだったみたいだから。気付くの遅かったけど。」
「俺もお前のこと、割と好きかもな。とにかく、ありがと。それと」
「?」
「今年はちゃんとお返しするからな。今までの分も全部まとめて。」
僕はアルバイトで貯めたお金がどれぐらいあるかを考えながら、
彼女にそう言った。
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