文具と雑貨のお店 プチチケット
petit-ticketで扱う商品をテーマにしたフィクションのショートストーリー。
〜petit-ticketのある風景〜
こんなアクシデントなら悪くないのに
「ヨーロッパ巡りの卒業旅行ですか。残念だけどこの怪我じゃあ諦めた方が良いね。」
お医者さんはカルテに何かを書き込む手を休める事無く、視線もこちらに向けずにそう言った。
「・・・そうですか。」
私はそれを聞いても、そんなに落ち込む事は無かった。
これがちょっと前までならかなり落ち込んで泣きわめき、周りに当たり散らしていた事だろう。
それぐらい卒業旅行を楽しみにしていた。
でも出発日が近づき、いよいよ現実的な話(各国で立ち寄る所だとか)をしている間に、 周りの友達と温度差を感じていた。
理由は簡単だ。
一緒に行く友達は皆、ヴィトンだとかプラダとかブランドショップに行く話ばかりしているのに対し、私は町の風景や景色を
見たいとずっと主張していた。でも、誰も友達は賛同してくれない。
(このまま一緒に行っても100%楽しめないかもな。)
そんな事を思いながら無理に笑顔を作って友達と話を合わせていた。
そんなある日、私は姉と一緒にスーツケースを借りる為、姉の部屋でスーツケースを探していた。
「確かここにあったと思うんだけど・・・」
そう言いながら脚立に登って戸棚を覗いていた姉がバランスを崩し、ベッドの下を探していた私の上に落ちて来た。
私は救急車で病院に運ばれ、足を複雑骨折してそのまま長期入院となってしまったのだ。
幸いにも、私は大学への進学も決まっていたし、出席日数も充分足りていて、そして卒業旅行もまだキャンセル料金が
発生する前だったので、特に何かに支障が出る訳では無かった。
ただ、姉は私が入院で卒業旅行に行けなくなった事を知って、大泣きしたらしい。私はそんなに気にしていないのに。
むしろ卒業旅行に行けなくなった理由を作ってくれた事に感謝したいぐらいだ。
入院して1週間。
昼ご飯を終えて、丁度これから退屈しそうな時、母が見舞いにやって来た。
母は、私の着替えやお願いした雑誌を棚に器用にしまい込み、パイプ椅子に腰掛けた。
「どう?元気?お姉ちゃんも心配してたよ。でも、お姉ちゃんは責任を感じてなかなかお見舞いにも来にくいみたいよ。
これ、あなたに渡してって預かって来た。」
そう言って、私に小さな包みを渡してくれた。
開けてみると、そこにはスタンプセットが入っていた。しかもフランス、イギリス、イタリア、ドイツと、私が旅行で巡る
予定だった国々のスタンプだ。それぞれの国の特徴的な建物や挨拶、町並みなどがスタンプになっている。とても素敵だ。
包みの中には、姉からの手紙が入っていた。
「今回は本当にごめんなさい。お詫びと言えるか分からないけどあなたが好きそうなものを町で見つけたので買って来ました。あと、今度、旅行に行くときの為にこれ使って下さい」
包みの中には手紙の他に旅行券(ヨーロッパ往復が余裕で出来るぐらい)が入っていた。
私は、すぐに姉に返事を書き始めた。
もちろん、貰ったばかりのスタンプをいっぱい使って手紙をデコレートする事も忘れなかった。
手紙には
「お姉ちゃん、私は大丈夫。今回はまあ残念だったけど、キャンセル料金もまだ掛からない時期だったし、友達たちはブランド巡りする計画みたいだったし、私はそこまでブランド好きじゃないから丁度良かったよ。
足が治ったら、私は私の好きな様に気ままな計画を立てて、町並みや風景なんかをゆっくり見に行こうと思います。
その時は、絶対お姉ちゃんも一緒に行こう。だからこの旅行券は取っておくね。」と書いた。
「お母さん、この手紙をお姉ちゃんに渡しておいて。あと、
今度来るときはフランス語とイタリア語、ドイツ語の旅行会話の本買って来てね。」
今度はきっとお姉ちゃんがお見舞いに来てくれるはずだ。
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チョコ
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